大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和57年(行ツ)90号 判決

東京都港区南青山七丁目一三番三七号

上告人

東日貿易株式会社

右代表者代表取締役

久保満沙雄

右訴訟代理人弁護士

山口博久

中村尚彦

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被上告人

麻布税務署長

川島貢

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五三年(行コ)第八八号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五七年三月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山口博久、同中村尚彦の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事項を前提とし独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎里 裁判官 中村治朗 裁判官 和田誠一)

(昭和五七年(行ツ)第九〇号 上告人 東日貿易株式会社)

上告代理人山口博久、同中村尚彦の上告理由

原判決は、主文と理由及び理由相互間に齟齬があり、破棄さるべきである。

一 本件は、被上告人麻布税務署長が、上告人の本件事業年度の加算項目として計上した使途不明金三、八一〇万円の正当性が争われた事件である。

この点について、原審は、

主文において、使途不明金処理を正当とし、理由中においては、この金員の支出は、事業開発費的な交際費と認定しながら、一方ではこれを寄付金とする。

右の使途不明金、交際費、寄付金は税務上、全く別個の概念のものとして処理されている。

従って、使途不明金処理を是認する主文と、交際費、寄付金だとする理由との間には相互に矛盾する。また、交際費の認定をしながら一方ではこれを寄付金とみることは理由間に齟齬があることになる。

ちなみに、

「使途不明金」とは、企業から支出されたことが明らかで、かつ使途が明らかでないものをいうが、この使途が明らかでないとは、企業が支出の相手方を秘匿していて、費目が確定できない場合をいっており、

「交際費」とは、交際費、接待費、機密費その他名義の如何を問わず、これらに類する費用で、法人がその得意先仕入先その他、事業に関係ある者に対する接待、供応、慰安、贈答その他、これらに類する行為のために支出する費用をいい、

「寄付金」とは、寄付金、拠出金、見舞金その他、いずれの名義をもってするかを問わず、金銭その他の資産または、経済的利益の贈与、または無償の供与をした場合における当該金銭等の額とされる。

従って、本件の上告人の支出金員が右のどの項目に該るのかを決定するためには、支出の相手方が明らかになっているかどうか、そして、支出の相手方が明確にされている場合は、その支出及びその相手方が事業に関連しているか否かを検討することになろう。

二 原審は本件の事実関係を次のとおり認定する。

(一) 被上告人が使途不明金とする金員について、上告人は

(イ) 昭和四〇年一〇月三〇日、都内の帝国ホテルにおいて、韓国の政治家である金鍾泌の実兄で韓国の韓一銀行の取締役である金鍾珞に対し、現金三〇〇万円を交付した。

(ロ) 昭和四一年六月七日、都内のパレスホテルにおいて韓国の国会議員で共和党の院内総務である金東換に対し、現金三〇万円を交付した。

(ハ) 同年六月二四日、都内の在日韓国大使館において、韓国政府ないし同大使館の高官に対し、現金一、二〇〇万円を交付した。

(ニ) 同年六月二七日、右大使館において、右高官に対し現金二、五〇〇万円を交付した。

(ホ) 同年八月三〇日、都内の帝国ホテルにおいて、右の金鍾珞に対し、現金三〇万円を交付した。

(二) しかして、上告人は、前項(イ)ないし(ホ)の各金員を、

(イ) 使途を定めず(右各人らに)交付した。

(ロ) それぞれの支出年度において、仮払金として資産の部に計上し、その後もそのまま繰り越してきた。

(ハ) 本件事業年度に至り、右合計三、八一〇万円を一括して、「韓国政府援助金」の科目で損益計算書の損失の部に計上し、確定申告をした。

(三) 上告人の右金員の交付は、・・韓国の大韓船舶公社に納入する貨客船を日本の造船会社に建造させるため・・上告人が造船契約の仲介を行っている間になされたもので、

(四) (右金員の交付は)前記造船契約の締結を進めるのに(韓国の政、官、財界から)なんらかの好ましい影響が及ぶことを期待したであろうことは否定し得ないとしても、主として、右造船契約の話を機に、韓国の政、官、財界の有力者とよしみを通じておくことにより、今後における韓国貿易に関して、一般的に有利な地歩を得ることを狙いとしていたものというのである。

三 原審の右事実認定によると、上告人は、

(一) 支出の相手方を秘匿していず、明確に本件金員の受取人を指摘している。

(二) その相手方に対する認識についても、

造船契約の締結に好ましい影響を与えてくれる相手である。

今後の韓国貿易に関して有利な地歩を得ることができる相手である。

とみているのである。

そうだとすると、本件金員は、支出の相手方が明らかである点から使途不明金ではなく、また支出の相手方からみて、支出が事業に関連がある点から寄付金にも該らない。

そうだとすると、原審の認定する事実からは、本件金員は、交際費とみるのが相当である。

四 前述のように、主文において、使途不明金処理を正当とし、理由において、これを交際費と認定することは、主文理由間に齟齬があり破棄を免れない。

交際費と認定する以上、使途不明金とする本件更正処分は取消されるべきであった。

一方、交際費には、損金算入に限度があり、その限度を超える金額は否認され、益金に加算されることになる。

本件では、その点の審理を欠いている。

寄付金だと認定しても税務処理は右と同様である。

仮に、本件事業年度まで繰り越してきた仮払金が、現実に支出した年度に交際費(寄付金でも同様)として処理さるべきだとしても、本件更正処分は誤った処分として取消されるべきであろう。

すなわち

取消処分の理由不備、乃至理由が事実と相違することは明らかである。

交際費として処理された年度の上告人の計算関係は、上告人の従来の業務活動からみて、赤字であることは充分に推測することができ、この赤字は累積して本件事業年度まで繰り越されてきた筈である。

そうだとすると、本件事業年度の税務申告も当然に変わったものとなり、本件更正処分も当然に、本更正処分と異なった内容の処分である筈である。

以上の点から明らかな如く、原審は、本件更正処分を維持すれば、自ら認定評価した事実を前提とする、これから正当に導き出される結論と矛盾が生じることに気付かずその点の審理を怠ったものである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例